ピロリ菌とは
ピロリ菌とは、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)という名前の細菌で、胃の粘膜に生息し、胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍などを引き起こすことが知られています。また、胃がんのリスク要因とも考えられています。感染経路は完全には解明されていませんが、口から口への接触や、汚染された食品や水を介して感染する可能性が高いとされています。ピロリ菌の感染は世界的に広がっており、特に衛生状態の悪い地域では感染率が高くなっています。
感染してもすぐに症状が出るわけではなく、多くの場合、無症状で長期間体内に留まることがあります。しかし、一度胃の中に定着すると、ピロリ菌は胃酸を中和する物質を出し、胃の防御機能を低下させることで慢性的な炎症を引き起こし、その結果、胃の病気を引き起こすことがあります。
ピロリ菌はいつ感染する?
ピロリ菌の感染は、多くの場合、子供の時に起こります。家族内での感染が一般的で、密接な接触や共有された食事を通じて伝播すると考えられています。日本におけるピロリ菌の感染率は、年齢とともに増加し、特に高齢層で高い感染率を示します。日本ヘリコバクター学会によると、日本の成人の約半数がピロリ菌に感染しているとされています。
ピロリ菌の感染は一般的には無症状ですが、感染が長期にわたると胃炎や胃潰瘍を引き起こす原因となり得ます。さらに、慢性的な胃炎は胃がんのリスクを高めることが知られています。感染経路は、口から口へ、つまり食べ物や飲み物の共有、または嘔吐物や糞便による環境汚染が関わることが多いです。衛生状態が悪い環境や、集団生活をしている場所では感染リスクが高まります。
ピロリ菌と胃がんについて
胃がんの発生数・死亡率
胃がんは、日本で多くの人々が直面する健康問題の一つです。国立がん研究センターが公開したデータによると、日本では年間約10万人が新たに胃がんと診断され、約5万人がこの病気で亡くなっています。これは、日本におけるがん死の約15%に相当します。
この胃がんの一因に、ピロリ菌の感染が挙げられます。ピロリ菌は世界の人口の約半数が持っているとされ、日本でも多くの人が感染しています。この細菌は、胃粘膜を損傷し、慢性的な炎症を引き起こすことで、長期にわたり胃がんを発症するリスクを高めます。
ピロリ菌を除菌すれば胃がん発生を抑制できる?
ピロリ菌は、胃の粘膜に生息し、胃炎や胃潰瘍を引き起こすことで知られる微生物ですが、それが胃がんへと進行する可能性にも関与しています。
研究によると、ピロリ菌の除菌は胃がん発生のリスクを低下させます。これは、ピロリ菌が胃の粘膜に慢性的な炎症を引き起こし、長期にわたると胃の細胞ががん化するリスクを高めるためです。除菌治療によって、この炎症の連鎖を断ち切ることができるのです。
具体的には、ピロリ菌に感染している人では、感染していない人に比べて胃がんになる確率が約5倍とされています。このリスクは、除菌治療によって約半減するというデータがあります。しかし、除菌治療は胃がんを完全に防ぐものではなく、既にがんの前段階である異常な細胞変化が起きている場合は、がんの発生を完全には防げない可能性があるので、定期的に胃カメラ検査を受ける必要があります。
ピロリ菌いる?診断について
胃の不調を抱えている多くの方が、その原因として「ピロリ菌」を疑います。では、このピロリ菌の有無はどのように診断されるのでしょうか?
ピロリ菌の感染を調べる方法には、いくつかの検査があります。代表的なものには、以下のようなものがあります。
- 尿素呼気試験:これは非常に一般的な検査で、患者様が飲む特殊な溶液がピロリ菌の活動によって変化するかどうかを、呼気を分析することで調べます。簡単で安全、かつ正確な検査方法です。
- 血液検査:患者様の血液中にピロリ菌特有の抗体が存在するかを調べる方法です。しかし、除菌後も抗体が残る場合があるため、感染の有無だけでなく、過去の感染歴も示唆されることがあります。
- 便中抗原検査:便の中にピロリ菌特有の抗原が存在するかを調べる検査で、非侵襲的でありながら感度の高い診断が可能です。
- 胃カメラ検査:直接胃の内部を視覚化し、必要に応じて組織のサンプルを採取して検査する方法です。この検査は、ピロリ菌の確認だけでなく、胃炎や胃潰瘍などの評価にも有効です。
ピロリ菌の除菌方法
胃の中に潜むピロリ菌は、除菌治療によってその数を減らし、胃の健康を取り戻すことができます。
ピロリ菌の除菌治療は「三剤併用療法」が一般的で、2種類の抗生物質と胃酸の分泌を抑える薬を組み合わせて使用します。治療期間は通常7日間で、医師の指導のもと正確に薬を服用する必要があります。
使用される抗生物質には、アモキシシリンやクラリスロマイシンなどがあります。これらはピロリ菌を直接殺菌する効果があります。一方で、プロトンポンプ阻害剤は、胃酸の過剰な分泌を抑え、胃粘膜の治癒を助け、抗生物質の効果を高める役割を果たします。
しかし、全ての患者様に同じ治療が適しているわけではありません。たとえば、特定の抗生物質にアレルギーがある方や、過去にピロリ菌除菌治療を受けたにも関わらず再感染してしまった方は、異なる種類の薬を使用する「二剤併用療法」や「四剤併用療法」が選択されることもあります。
ピロリ菌除菌は保険適用になる?
条件を満たせば健康保険の適用対象です。
2013年2月22日より、ピロリ菌の感染による慢性胃炎に対しても保険診療が拡大されました。これにより、胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの病気だけでなく、胃のもたれや不快感などの症状が軽くても、ピロリ菌の感染が確認され、内視鏡で慢性胃炎だと診断されれば、除菌に保険が適用されるようになりました。
具体的には、以下の条件を満たす場合に、ピロリ菌の除菌は健康保険の適用対象となります。
- ピロリ菌の感染が確認されていること
- 慢性胃炎と診断されていること
ピロリ菌の感染は、呼気検査や血液検査、胃カメラ検査などによって確認することができます。慢性胃炎の診断は、内視鏡検査によって行われます。