機能性ディスペプシアとは
胃もたれや胸焼け、腹痛など、食後に不快な症状を感じた経験はありませんか?これらは機能性ディスペプシアの典型的な症状かもしれません。機能性ディスペプシアは、胃の病変や感染を示さないにも関わらず、消化器系の症状が持続または繰り返す状態を指します。
一般的な検査で異常が見つからないため、患者様自身も戸惑いを感じることがあります。しかし、この状態は消化器病学の分野で広く認知されており、多くの研究が進められています。
不明確な原因による不快な症状は、日常生活にストレスをもたらすこともあります。しかし、適切な診断と治療により、症状の管理は可能です。機能性ディスペプシアに関する理解を深めていきましょう。
機能性ディスペプシアの原因
具体的な原因はまだ完全には解明されていませんが、それでも、現在の医学ではいくつかの可能性を想定しています。
機能性ディスペプシア(FD)の原因として、最も注目されているのは胃の運動機能の障害です。胃が食べ物を適切に混ぜたり、小腸へ送り出したりする機能が低下することで、不快な症状が発生すると考えられています。また、胃の感覚が過敏になり、通常は感じないような刺激に対しても痛みを感じる「感覚過敏」も原因の一つです。
心理社会的なストレスも、FDの症状を引き起こしたり悪化させたりする重要な要因です。ストレスは自律神経を乱し、胃腸の動きに影響を与えることが知られています。
さらに、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染がFDの発症に関連しているという報告もあります。
不規則な食事や食生活の乱れ、一部の薬剤の副作用もFDの原因となり得ます。これらの要因が複雑に絡み合い、個々の患者様のライフスタイルや体質によって症状が異なるため、診断には丁寧な問診と検査が必要となります。
機能性ディスペプシアの症状
機能性ディスペプシア(FD)と診断された方々は、「何を食べても胃が重い」「食後すぐにお腹がいっぱいになる」といった症状に頭を悩ませていることでしょう。これらはFDの代表的な症状であり、胃の中に石が入っているかのような重苦しさや、少量の食事で早く満腹になる感覚(早期満腹感)、そして食後の過度な膨満感が挙げられます。また、胃痛や腹痛、胸やけ、そして吐き気を伴うこともあります。
これらの症状は、日常生活においてストレスや不安を増大させ、生活の質(QOL)を著しく低下させる可能性があります。特に、食事を楽しむことが難しくなり、社会活動にも影響を及ぼすことがあります。
FDの症状は個人差が大きく、同じFDと診断されても患者様によって感じる症状の種類や強さは異なります。なお、これらの症状が見られるからといって、必ずしもFDであるとは限りません。他の消化器疾患の可能性もあるため、正確な診断が必要です
機能性ディスペプシアの検査・診断
機能性ディスペプシア(FD)の診断プロセスは一筋縄ではいきません。なぜなら、FDは構造的な異常が見られない「機能的」な病態であるため、特定の検査で直接的に証明することが難しいからです。
まず、医師は患者様の詳しい症状や病歴を聞き取ります。その上で、胃腸疾患を除外するための一連の検査が行われます。代表的な検査方法としては、内視鏡検査があります。これにより、胃や十二指腸に潰瘍や腫瘍などの構造的異常がないかを確認します。
さらに、ヘリコバクター・ピロリ菌の有無を調べる検査も重要です。この菌が原因で症状が引き起こされることがあるため、感染が確認されれば除菌治療が行われることもあります。
FDの診断には、これらの検査結果に基づき、他の疾患が除外された上で、症状のパターンや持続期間などに基づく臨床診断が主に用いられます。ローマ基準という国際的な診断基準があり、これを用いてFDの診断がなされます。
最新のローマ基準である、ローマIV基準によると、FDを診断するためには、以下の条件を満たす必要があります。
- 構造的な疾患が内視鏡検査などで除外されていること。
- 症状が過去3ヶ月以上にわたって存在し、少なくとも6ヶ月前に始まったこと。
- 以下の項目に1つ以上当てはまること。
a.つらいと感じる食後のもたれ感
b.つらいと感じる早期飽満感
c.つらいと感じる心窩部痛
d.つらいと感じる心窩部灼熱感
機能性ディスペプシアの治療
治療の第一歩として、生活習慣の見直しが推奨されます。規則正しい食事、適度な運動、ストレスの管理など、日常生活の中で改善できるポイントは多々あります。また、食後の過度な満腹感を避けるために、食事量を少なくし、ゆっくりと食べることも重要です。
さらに、薬物療法が用いられることがあります。例えば、胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害剤(PPI)や、胃の動きを促進するプロキネティック薬などが処方される場合があります。これらの薬は、症状を緩和し、消化を助けることを目的としています。
一部の患者様では、ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌治療が有効であることが知られています。この菌が原因で症状が悪化している場合、除菌によって症状の改善が期待できます。
また、心理社会的な要因が症状に大きく関わることがあるため、心理療法が推奨されることもあります。認知行動療法やリラクゼーション療法などが、ストレスを軽減し、症状を和らげるのに役立ちます。