バスキュラーアクセスとは
人工透析治療を行う際、体外に血液を出して浄化するためには、「バスキュラーアクセス」という手段が必要です。長期にわたる点滴治療や採血、人工透析など、血管を繰り返し使う治療を受ける患者様にとって重要な役割を果たす血管への「入り口」です。この入り口を作るための医療技術を指します。通常、手足の静脈を使うことが多いのですが、頻繁に針を刺すと静脈は傷つきやすく、やがて繊細な血管が使えなくなることがあります。
バスキュラーアクセスには後述する幾つかの方法があります。2008年の調査では、日本での透析患者のバスキュラーアクセスの割合は以下のとおりとなっております。
自己血管内シャント89.7%、人工血管内シャント7.1%、動脈表在化1.8%、カフ型カテーテル0.5%、非カフ型カテーテル0.5%、シングルニードル透析(0.2%)、その他0.2%となっています。(日本透析医学会「わが国の慢性透析医療の現況)
バスキュラーアクセスの種類
バスキュラーアクセスには大きく3つの種類があります。
内シャント
内シャントとは、自分の腕の動脈と静脈をつなげて作るバスキュラーアクセスです。内シャントは、血液の流れが安定していて、長期にわたって使用できるというメリットがあります。内シャントには、自己血管内シャントと人工血管内シャントがあります。
自己血管内シャント
患者様の腕の動脈と静脈を手術で直接結びつけることによって作る血管へのアクセス路です。動脈から取り出した血液を透析機に通してきれいにし、その後静脈へ戻すことで、体内の血液を浄化します。 この手法は自分の血管を使うため、体への適合性が高く、長期に渡って使用できる利点があります。シャントが確立されることで、透析中に必要な大量の血液を確実に移動させることが可能となります。
人工血管内シャント
患者様の腕に動脈と静脈をつなぐための人工の血管を埋め込む方法です。この人工血管を通じて、透析機器で浄化された血液が静脈に戻されるシステムを構築します。血管の状態が弱く、細かったり脆かったりする場合でご自身の血管が透析に適さない場合にこの方法が選ばれます。
長期的には人工血管の劣化や血栓のリスクがあるため、定期的なチェックが必要となります。
表在化動脈
表在化動脈とは、自分の腕の動脈を皮膚の表面に出すバスキュラーアクセスです。表在化動脈は、内シャントを作ることが難しい場合に用いられます。
表在化動脈
内シャントが困難な場合の代替として、表在化動脈が選ばれることがあります。これは、腕の内側に位置し通常は見えない動脈を、浅い位置に移動させる手術です。これにより、透析のために何度も針を刺さなければならない際に、アクセスを容易にします。特に血管が狭い、あるいは他の医療疾患で内シャントが作れない方に適用されます。この方法の大きな利点は、手術後すぐに透析が開始できることと、または針を刺すことが比較的簡単になるため、透析の負担が軽減されます。しかし、手術には感染のリスクや血管損傷のリスクがともないます。また、血管が皮膚表面に近いため、ケアには特別な注意が必要となります。
透析用カテーテル
透析用カテーテルとは、手首や肘などに挿入するカテーテルを用いたバスキュラーアクセスです。透析用カテーテルは、内シャントや表在化動脈を作ることができない場合に用いられます。
透析用カテーテル
特殊な柔らかいチューブを大きな血管に挿入する方法で、内シャントや動脈表在化を行うことが難しい方のための選択肢となります。
カテーテルは一般的に、短期間で透析を開始する必要がある場合や、他のアクセス方法が適さない際に使用されます。例えば、緊急で透析が必要な方や、血管の状態が他の手術を行うには適さない方が対象となることが多いです。
利点は迅速に透析を開始できる点にあります。しかし、カテーテルが体内に留まる場合、感染症のリスクが高まるため、清潔に保つことが重要です。また長期間の使用は推奨されないため、将来的により恒常的なアクセスが必要になる可能性があります。
シャントとは
シャントとは、透析機器と体内の血液をつなぐための橋渡し役をするための手術です。この手術により、患者様の血液循環と透析機器を直接結びつけることができます。 具体的には、通常の血管よりも太く、透析のために繰り返し使うことが可能な血管を作ります。これは、手や腕にある動脈と静脈を直接つなげることにより行われます。手術は局所麻酔下で行われることが多く、数週間から数ヶ月で血管が成熟し、透析に利用できるようになります。
シャントの種類
外シャント
これは、体の外部に一時的な血管ルートを作る手術です。 外シャントは、患者様の腕などに小さなチューブを使って短期間のアクセスを確保します。特に急を要する場合や、他の長期的なバスキュラーアクセスが準備されている間の一時的な措置として考えられます。手術は通常、局所麻酔を使用して行われ、皮膚の下ではなく外にチューブが出ている状態となります。 外シャントの最大の利点は、即座に透析治療を開始することが可能となる点です。突然、透析が必要になった場合に迅速に対応でき、生命を守る重要な選択肢となります。
しかし、この方法にはいくつかの注意点があります。まず、チューブが外に出ているため、感染のリスクが高まります。これを避けるためには、常にチューブの周囲を清潔に保ち、定期的なケアが必要です。また、外シャントはあくまで一時的な解決策であり、長期間にわたって使用されることは推奨されていません。そのため、緊急性がなくなったら、できるだけ早く恒久的なアクセスを確立する計画を立てることが重要です。
内シャント
内シャントはバスキュラーアクセスの確保の中でも一般的な方法で、長期にわたる透析治療に適したアクセスを提供します。
内シャントとは、体内の動脈と静脈を直接結びつける手術で、主に腕に作られます。この手術を行うことで、透析時に大量の血液を効率的にダイアライザーへと導くことが可能になります。
手術自体は通常、太い血管が近くにある前腕や上腕を使って行われ、局所麻酔のもとで実施されます。血管が一つにつながることで、より太くて丈夫な「ループ」として機能し、透析用の針を何度も挿入可能になります。
内シャントの最も大きな利点は、定期的な透析に耐えうる強度と血流を確保できること。また、比較的感染のリスクが少ないことも挙げられます。長期にたって安定して使用することができるため、生活の質を高めることにも繋がります。
ただし、注意点もあります。内シャントが適切に機能するためには、手術後に血管が正しく「成熟」する時間が必要となります。また、シャントが詰まったり損傷したりするリスクを減らすためには、患者様自身での注意深い観察と、定期的なメンテナンスが必要とされます。
当院のシャントPTA治療について
当院の循環器内科では、透析のシャントPTA(シャント拡張術)を行っています。血液透析を行う際、充分な血液量が確保できるように動脈と静脈をつなぎ合わせた血管をシャント血管と言いますが、シャントPTAはこの血管が狭窄や閉塞した場合に血栓吸引カテーテルやバルーンカテーテル(風船付きカテーテル)、または人工血管を用いて血管を再貫通させる治療方法となります。
当院のPTAは基本的にエコーガイド下でPTAを行っております。エコーガイド下では局所麻酔を十分に投与し、バルーン拡張の際の痛みを最小限に抑えることができます。また、症状に応じ造影剤を用いてシャントトラブルを的確に解消する治療も行なっています。
当院のシャントPTAは基本的に日帰り手術となります。
シャントPTA治療の流れ
エコーガイド下で狭くなっている血管の部分にバルーンを進め、バルーンを膨らませることで狭い部分を広げ、血管の流れをよりよくしていく。
シャントトラブルとは
透析におけるシャントは、清潔な血液を体内に循環させるための橋渡しです。しかし、この大切なシャントが時にトラブルを起こすことがあります。痛み、腫れ、感染、狭窄(血管が細くなること)、閉塞(血管が塞がること)などがその例です。これらは透析の効率を下げ、時には健康を大きく脅かすこともありますので、早期発見と適切な対応が非常に重要です。普段からシャント部の異変に注意を払い、異常を感じたらすぐに医師に相談しましょう。定期的なチェックでこれらのリスクを減らし、安全に透析を受け続けることができます。
主なシャントトラブル
シャント狭窄
シャント狭窄とは、シャントが狭くなることです。シャントが狭くなると、血液の流れが悪くなり、透析がうまくできなくなることがあります。また、狭窄部位が破裂する危険性もあります。
シャント狭窄の原因には、以下のようなものがあります。
- 血管の壁が厚くなること
- 血管の内部にプラークが溜まること
- 血管の内部に血栓が溜まること
- シャント部位への強い衝撃
- シャント部位の感染
シャント狭窄の症状は、以下のようなものがあります。
- シャント音が弱くなる
- シャント部位が硬くなる
- シャント部位が痛む
- シャント部位が腫れる
- 透析中に血液の流れが悪くなる
シャント閉塞
シャント閉塞とは、シャントが完全に詰まってしまうことです。シャントが閉塞すると、透析が全くできなくなり、緊急の処置が必要になることがあります。
シャント閉塞の原因は、以下のようなものがあります。
- 血栓が形成されること
- 血管の壁が壊れること
- シャント部位の感染
シャント閉塞の症状は、以下のようなものがあります。
- シャント音が全く聞こえない
- シャント部位が硬くなる
- シャント部位が痛む
- シャント部位が腫れる
- 透析中に血液の流れが悪くなる
シャント血管瘤
シャント血管瘤とは、シャント部位に血液が溜まってできるコブのことです。シャント血管瘤が大きくなると、血液の流れが悪くなり、狭窄や閉塞の原因になることがあります。
シャント血管瘤の原因は、以下のようなものがあります。
- シャント部位の繰り返しの穿刺
- シャント部位の感染
- シャント部位の血管の壁が弱くなること
シャント血管瘤の症状は、以下のようなものがあります。
- シャント部位がコブのように膨ら
- シャント部位が痛む
- シャント部位が腫れる
- 透析中に血液の流れが悪くなる
シャント感染
シャント感染とは、シャント部位に細菌やウイルスが侵入して炎症を起こすことです。シャント感染は、透析治療の妨げになるだけでなく、敗血症に至ることもある重篤な合併症を引き起こす可能性があります。
血管損傷
シャント部位の血管が傷ついてしまい、シャント閉塞やシャント感染などの他のシャントトラブルの原因になる可能性があります。
血管損傷の原因は、以下のようなものがあります。
- シャント部位の穿刺の際に、針やカテーテルが血管を傷つける
- シャント部位への強い衝撃
- シャント部位の感染
血管損傷の症状は、以下のようなものがあります。
- シャント部位の痛み
- シャント部位の出血
- シャント部位の腫れ
- シャント部位の発熱
- 血尿
シャント流出障害
シャント流出障害は、透析に用いるシャントから血液を透析機に送る際、血液の流出が不十分な状態を指します。この状態は、シャントの中の血管が狭くなったり、血管が曲がったり、あるいは内部に血栓が形成されたりした場合に発生します。流れが悪くなると、十分な量の血液を定期的に透析機に通すことができなくなり、透析治療の効果が落ちてしまいます。
静脈高血圧症
静脈高血圧症は、シャントから流れる血流が正常に心臓に戻ることができず、静脈の圧力が上昇した状態です。
シャントから流れる血液は、動脈から送られる血液の圧力によって、心臓に戻ります。しかし、シャント内に狭窄や閉塞が生じると、血流が滞り、静脈の圧力が上昇します。この状態が静脈高血圧症です。
静脈高血圧症の症状は、シャント造設肢の局所的または肢全体に生じる血流の静脈還流不全症状です。具体的には、以下のようなものが挙げられます。
- 手や腕の浮腫
- 手や腕の痛み
- 手や腕のしびれ
- 手や腕の色調異常(赤み、青み)
- 手や腕の潰瘍
スティール症候群
スティール症候群は、シャントから流れる血流が手指の血流を圧迫して、手指の末梢循環障害を引き起こす病気です。
シャント血流量が過剰になると、手指の血流を圧迫して、手指の末梢循環障害を引き起こします。この状態がスティール症候群です。
スティール症候群の症状は、以下のようなものが挙げられます。
- 手指の痛み
- 手指のしびれ
- 手指の冷感
- 手指の色調異常(青白くなる)
- 手指の潰瘍
スティール症候群は、そのまま放置すると、以下の合併症を引き起こす可能性があります。手指の壊死、感染症
血清腫
血清腫は、シャント内に埋め込まれた人工血管から血漿が漏れ出して、周囲に溜まった状態です。
シャント内に埋め込まれた人工血管は、血液が通ることで圧力が加わります。この圧力によって、人工血管の壁から血漿が漏れ出し、周囲に溜まります。
血清腫の症状は、以下のようなものが挙げられます。
- シャント造設肢の腫れ
- シャント造設肢の痛み
- シャント造設肢の色調異常(赤み、青み)
血清腫は、そのまま放置すると、以下の合併症を引き起こす可能性があります。
- 感染症
- 化膿性血清腫
- シャント閉塞