TOPへ

腎性貧血

腎性貧血とは

腎性貧血とは、腎臓が分泌するエリスロポエチンというホルモンの量が低下することで起こる貧血です。エリスロポエチンとは、赤血球の産生を促進する働きを担うホルモンで、腎臓から分泌されます。腎機能が低下すると、このエリスロポエチンの分泌が減少し、赤血球の産生能力が低下して貧血を引き起こします。

エリスロポエチンとは?

エリスロポエチン(EPO)は肝臓から分泌されるホルモンの一つで、骨髄を刺激して赤血球を産生させる働きがあります。このホルモンは肝臓が低酸素状態を感知すると分泌されますが、腎臓の機能が何らかの原因によって低下してくると、このエリスロポエチンを分泌する能力も低下し、骨髄で赤血球の産生が行われなくなって腎性貧血となります。
貧血を起こす原因は様々なケースがありますが、共通していることは、赤血球量が減少することで組織や臓器に運搬される酸素量が低下することです。 腎性貧血の症状も、他の貧血の症状と同じとなりますが、慢性的に貧血状態が続くと、全身の様々な機能の低下を引き起こす恐れがありますので、注意が必要です。


腎性貧血の原因

腎性貧血を起こす主な原因は腎機能の低下になりますが、それ以外にも以下のような様々な原因があります。

  • 鉄分不足
  • 生理などによる出血過多
  • ビタミンB12・葉酸・亜鉛の不足

など

治療は原因によって異なるため、腎臓病の患者様が貧血を起こした際には、腎性貧血以外の原因が隠れていないかを血液検査によって確認します。


腎性貧血の症状

赤血球は全身に酸素を運搬する役割を担っているため、腎性貧血を起こすと、疲れやすい、動悸、息切れ、めまいなどの症状を引き起こします。ただし、貧血は緩やかに進行することが多く、体も徐々に貧血状態に順応してしまうため気がつかないこともあり、注意が必要です。

  • 疲れやすい
  • 息切れ
  • 動悸
  • めまい・ふらつき
  • 立ちくらみ
  • 耳鳴り
  • 頭痛
  • 肩こり
  • 眠気
  • 食欲不振
  • 悪心
  • 性機能低下

など


腎性貧血の診断

貧血を起こす疾患は様々なケースありますが、その一つに腎機能が低下することによる腎性貧血があります。検査によって腎機能の低下以外の原因でないことが確認されると、腎性貧血と診断されます。
腎性貧血の可能性が疑われた場合は、血液検査を中心とした検査を行い、腎機能障害によるエリスロポエチンの産生不足であると確認されると、腎性貧血が確定します。
日本透析医学会の慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドラインでは、腎性貧血の診断を以下のように定めています。

1.腎性貧血とは、腎臓においてヘモグロビンの低下に見合った十分量のエリスロポエチン(EPO)が産生されないことによってひき起こされる貧血であり、貧血の主因が腎障害(CKD)以外に求められないものをいいます。

2.保存期 CKD 患者では、血中 EPO 濃度の測定が診断に有用なこともあります。

3.EPO 産生低下以外の貧血発症要因として、何らかの因子による赤血球造血の抑制・赤血球寿命の短縮・鉄代謝の障害・透析回路における残血・出血・栄養障害など、様々な因子の関与が想定されているが、十分に解明されていません。

貧血(腎性貧血)の診断基準値としてはヘモグロビン(Hb)値を用いるべきであり、日本人における貧血の診断は年齢、性差を考慮して以下の基準で行うのが妥当です。
ただし、治療における判断は各章に推奨・提案する内容を基準に行います。

4.腎性貧血の診断では、貧血をきたす様々な血液疾患を鑑別する必要があります。
血液疾患の鑑別には

  1. 白血球、血小板異常の有無(芽球の存在を含めた分画、形態、数の異常)
  2. MCV 値による貧血の分類(小球性・正球性・大球性)
  3. 網赤血球数の増減
  4. 血中 EPO 濃度の測定

が役立ちます。

貧血と診断されるヘモグロビン値

  60歳未満 60歳以上 70歳未満 70歳以上
男性 <13.5g/dL <12.0g/dL <11.0g/dL
女性 <11.5g/dL <10.5g/d <10.5g/dL

腎性貧血の分類

腎性貧血そのものには特定の分類基準があるわけではないですが、一般的に腎性貧血は腎機能障害の進行度によって症状も悪化します。したがって、進行度や程度により、間接的に腎性貧血を分類することができます。
貧血自体は、程度(軽度、中等度、重度)により分類されることが多いです。分類は、主にヘモグロビンレベルに基づいて整理されています。以下が一般的な分類となります。

  軽度 中等度 重度
ヘモグロビン値 <11g/dL 8~10g/dL <8g/dL

腎性貧血の治療

  • 治療の開始ヘモグロビン基準:11g/dL未満
  • 目標ヘモグロビン値:11~12g/dL

治療中は定期的に血液検査を行い、ヘモグロビン値が上記の基準値内におさまるようにコントロールしていきます。ヘモグロビン値には適切な範囲があり、ヘモグロビン値が基準より低いと、貧血症状により日々の生活の質が低下します。一方、ヘモグロビン値が基準より高いと、血液の固まりが血管を塞ぐ血栓症を起こすリスクが増大します。特に、赤血球の産生を促す目的で行うESA製剤(エリスロポエチン刺激薬)を用いた治療を行うときは、ヘモグロビン値が高くなりすぎないよう、注意が必要になります。また、血液濃度が高いと、血栓が形成されやすくなって心筋梗塞や脳梗塞などの重篤な合併症を引き起こす可能性も高まります。
このような理由から、定期的に血液検査を行って治療を調整し、適切なヘモグロビンレベルを維持することが非常に重要となります。

鉄補給療法

腎性貧血は鉄欠乏症を合併していることが多く、体内の鉄分が不足するとESA製剤の効果を阻害します。したがって、腎性貧血の初期治療には鉄補給療法を行うことが多くあります。血液検査によって鉄欠乏の傾向が見られた場合や、鉄補給が不十分であると判断された場合には、服用または静脈内で鉄剤が投与されます。
ただし、鉄補給療法は鉄過剰を引き起こす可能性があることや、便秘、胃の不快感などの副作用を起こすこともあります。

ESA製剤

ESA製剤(エリスロポエチン刺激剤)とは、エリスロポエチンの働きを補い、赤血球の産生を促進する薬剤です。ESA製剤を使用することで、骨髄が刺激されて赤血球の産生が促されます。患者様が鉄補給療法を行っても反応がない場合や、ヘモグロビンレベルが低い場合には、ESA製剤が投与されます。
ESA製剤は皮下注射や静脈内投与によって注入されることが多いですが、透析治療をしている場合は透析回路内に注入されることもあります。
ただし、一部の患者様ではESA製剤によって血栓形成を引き起こす可能性があります。そのため、治療中は定期的に血液検査を行い、血液の粘度や血栓形成の兆候を観察しながら治療を行う必要があります。

  • ダルベポエチンアルファ(商品名:ネスプ)
  • エポエチンベータ(商品名:エポジン)
  • エポエチンアルファ(商品名:エスポー)
  • エポエチンベータペゴル(商品名:ミルセラ)

ビタミン補給療法

ビタミン補給療法とは、ビタミンB12または葉酸が不足している場合に行われる治療法です。ビタミンB12や葉酸は、赤血球の生産に必要なビタミンです。

HIF-PH阻害薬

HIF-PH阻害剤は、意図的に体を低酸素状態とし、エリスロポエチンの産生を促進する治療薬です。日本では2019年に承認された比較的新しい薬剤で、腎性貧血治療の新たな治療選択肢として導入されました。HIF-PH阻害剤は、ESA治療では十分な効果が見込めない患者様や、ESA治療が適切でないと判断された患者様に対して、使用が検討されます。一般的に、HIF-PH阻害剤は経口薬として利用されます。
ただし、HIF-PH阻害剤を使うと、高血圧やヘモグロビンレベルの過剰な上昇を引き起こす恐れがあります。そのため、使用の際には、定期的に血圧とヘモグロビンレベルを確認しながら治療を進める必要があります。

  • ロキサデュスタット(商品名:エベレンゾ)
  • ダプロデュスタット(商品名:ターブロック)
  • バダデュスタット(商品名:バフセオ)
  • エナロイ(商品名:エナロデュスタット)
  • モリデュスタット(商品名:マスーレッド)

輸血

重篤な貧血状態にある、または早急にヘモグロビンレベルを上げる必要がある場合は、輸血が行われます。ただし、これは一時的な治療になります。
前述の通り、腎性貧血はガイドラインに基づいた診断や治療法があり、治療の開始基準や目標設定などの目安があらかじめ定められています。しかし、ヘモグロビンの目標値は、患者様一人ひとりの健康状態や年齢、症状、生活の質等によって異なるため、患者様と相談して決定することが重要です。


腎性貧血の治療をする重要性

腎性貧血になると、疲れやすいなどの症状によって日常生活に支障をきたします。また、貧血が強いほど末期腎不全になる割合が高いという報告もあります。 腎性貧血を治療すると、疲れやすい、動悸・息切れといった症状のほか、心臓の働きも改善されます。また、早い時期から貧血治療をすることにより、CKDの進行を抑えることができるという報告もあります。