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心筋炎・心筋症

心筋炎とは

心筋炎は、心臓の筋肉(心筋)に炎症が生じる疾患です。心筋は、心臓のポンプとしての働きを担っています。心筋炎によって心筋がダメージを受けると、心臓のポンプとしての働きが低下し、心不全や不整脈などの症状を引き起こすことがあります。ウイルス感染が主な原因とされておりますが、細菌、真菌、寄生虫の感染、薬剤反応、あるいは全身性の疾患に関連して生じることもあります。
心筋炎は、疲れやすさ、胸の痛みや不快感、息切れ、不整脈などの症状を引き起こすことがあり、重症化すると心不全や命に関わる合併症を引き起こす可能性があります。風邪のような症状の後に発症することもあります。季節性のウイルスによる心筋炎が見られることがありますが、幸い重症化するケースは比較的少ないとされています。

心筋炎と心筋症の違い

心筋炎と心筋症は、どちらも心臓に関わる病態ですが、その原因となる病気のおこり方は異なります。
心筋炎は、心臓の筋肉である心筋に炎症が発生する状態を指します。この炎症は、多くの場合、ウイルス感染によって引き起こされますが、細菌や自己免疫の問題など他の原因によることもあります。心筋炎の発症は急性であることが多く、適切な治療を行えば完全に回復することが可能です。
一方、心筋症は心筋の構造や機能に異常が生じることによる疾患群を指し、心筋炎が慢性化したり、他の原因で心筋が変性することによって起こります。心筋症には、遺伝的要因が関わるものもあり、治療が複雑になることがあります。
心筋症は特定の遺伝的背景を持つ人に発症する可能性が高いことが知られています。また、日本人においては、心臓の筋肉(心筋)が薄く弱くなり、心臓が拡張して収縮力が低下する「拡張型心筋症」が比較的多く見られます。


心筋炎の原因

主な原因はウイルス感染で、風邪やインフルエンザ、エンテロウイルス、アデノウイルスなどが関連しています。細菌や真菌、寄生虫の感染、さらには薬剤や放射線による影響で発症する場合もあります。
自己免疫疾患、つまり体の免疫系が誤って自身の心筋を攻撃することによっても心筋炎は起こり得ます。
統計によれば、心筋炎は比較的若い成人に多く見られ、日本においても成人のウイルス性心筋炎の報告がありますが、幸い多くの場合は回復に向かいます。


心筋炎の症状

一般的な症状には、疲労感、息切れ胸の痛みや圧迫感、不整脈足のむくみがあります。また、発熱や、風邪に似た症状を示すこともあります。
症状は軽度から重度まで幅があり、時には自覚症状がほとんどない「無症候性心筋炎」の場合もあります。しかし、重症化すると、急性心不全や生命に関わるリスクを伴うこともあるため、注意が必要です。
心筋炎は特定の年齢層や性別に限定されず、幅広い年齢層に発症する可能性がありますが、若い成人に比較的多く見られる傾向があります。日本では、季節性のウイルス感染の後に心筋炎が発生するケースが報告されています。
最近では、COVID-19に関連した心筋炎の症状にも注目が集まっており、特に感染後の回復期に注意が必要であるとされています。

心筋炎で首や背中、肩が痛くなる?

心筋炎で首や背中、肩が痛くなるのは、心筋の炎症によって神経が刺激されることが原因と考えられています。心臓は、胸の中央部に位置していますが、首や背中、肩の神経と近い場所にあります。心筋の炎症によって、これらの神経が刺激されると、痛みを感じるようになるのです。
心筋炎で首や背中、肩が痛くなる症状は、心筋炎の症状の中では比較的多くみられるものです。特に、ウイルス性心筋炎での発症頻度が高いといわれています。
痛みの程度は、軽いものから重いものまでさまざまです。鈍い痛みや鋭い痛み、締めつけるような痛みなど、さまざまな痛み方があります。また、痛みが続く場合もあれば、波のように現れたり消えたりすることもあります。
痛みが首や背中、肩に限局している場合もあれば、胸の痛みや息切れなどの心筋炎の他の症状と同時に現れる場合もあります。


心筋炎の診断

まず医師は、診察により、胸痛、息切れ、疲労感などの症状、そして病歴や経過などにより初期評価をします。重要なのは、患者様が以前にウイルス感染症や免疫に関連する疾患を経験していないか、また最近ワクチンを接種していないかという点です。
心筋炎の経過は、急性型と慢性型に分けられます。
急性型心筋炎は、発症後数日以内に症状が現れ、数週間から数ヶ月で自然に回復することが多い病態です。
慢性型心筋炎は、発症後数ヶ月以上経過しても症状が改善せず、心不全や不整脈などの合併症を引き起こすことがある病態です。


心筋炎の検査

診断にはいくつかの重要な検査があります。
最初のステップは、心電図(ECG)を行うことです。これにより、心筋の電気活動を記録し、異常なリズムや伝導の問題がないかを確認します。心筋炎の場合、ECGにはしばしば非特異的な変化が見られますが、これが病気の証拠となることがあります。
次に、血液検査が行われ、炎症のマーカーや心筋損傷の指標を測定します。特定の酵素や蛋白質のレベルが高い場合、それは心筋の損傷を示唆する重要な手がかりとなります。
心エコー検査もまた、心筋炎の検査において中心的な役割を果たします。この検査は、超音波を使用して心臓の動きや構造を視覚化し、心筋の厚みや機能に異常がないかを評価することができます。
より詳細な情報が必要な場合は、心臓のMRIが推奨されることがあります。MRIは、心筋の炎症や損傷の範囲を非常に正確に捉えることができ、診断において非常に価値があります。
最新の研究では、これらの標準的な検査に加えて、遺伝子検査や先進的なイメージング技術が心筋炎の診断に貢献する可能性が示されています。これにより、特に遺伝的要因や特定の薬剤反応による心筋炎を特定することが可能になります。


心筋炎の治療

治療は症状の重さや原因によって異なります。治療の主な目的は、炎症の管理と心機能のサポート、さらには合併症の予防です。

軽度の心筋炎の場合

主に安静にすることが推奨されます。身体活動を制限し、十分な休息を取ることで、心臓にかかる負担を減らし、自然な回復を促します。また、炎症や痛みを軽減するために、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が処方されることもあります。

ウイルスが原因の場合

特定の抗ウイルス薬が有効であることが示されていますが、心筋炎に対する抗ウイルス療法はまだ広くは採用されていません。

細菌が原因の場合

適切な抗生物質が使用されます。

劇症型心筋炎

劇症型心筋炎とは、心筋炎の中でも心臓の機能が極端かつ急激に低下し、全身の循環が維持できなくなる症状です。強心剤、人工呼吸でも循環を維持できず、人工心肺装置を装着して心臓の回復を待つ場合もあります。風邪のような症状から突然心臓の機能が悪化し心停止にまで至る恐ろしい病気です。人工心肺装置として経皮的心肺補助装置(PCPS)を使用することが多いですが、経皮的カテーテル左心補助装置(IMPELLA)によって左室の補助を低侵襲で行うことが可能となりました。数日から1週間程度で心臓の機能が回復することが多いのですが、回復しない場合は左心人工補助装置あるいは両心人工補助装置を取り付け、長期間にわたり心臓の回復を待つことや、心臓移植を行う場合もあります。

重症の心筋炎の場合

入院治療が必要になることがあります。ステロイドや免疫抑制剤が炎症を抑えるために用いられることがあります。さらに、心不全の兆候が見られる場合には、利尿剤やACE阻害薬などの心不全治療薬が処方されることがあります。
心筋炎の治療反応は一般に良好で、多くの患者様が回復します。しかし、心筋炎は再発することがあるため、治療後も定期的なフォローアップが重要です。